役員退職金を準備する方法には、いくつかの選択肢があることをご存じでしょうか?
実は、法人の生命保険でも前もって役員退職金を準備することができるのです。
そこで本記事では、役員退職金を生命保険で準備するための方法を解説します。
計画的に退職金を準備し、同時に生命保険で不測の事態にも備えたいとお考えの経営者様は、ぜひ最後までお読みください。
役員退職金とは
役員退職金とはその名の通り、
役員が退職するときにもらえる手当てのことです。
一般社員と異なり、役員が退職する際は、自らの判断で退職金を準備しなければなりません。
また、役員が支給を受ける場合は、株主総会の決議を経るか定款に従うことが求められます。
なお役員退職金には、“退職慰労金”と“死亡退職金”の2種類があります。
退職慰労金は、取締役や監査役などの役員であった者が退任するときに支払われるもので、勤続年数や功績に応じて支給される金額が決まるのが特徴です。
一方、死亡退職金は労働者の死亡に伴う退職または退職後の死亡によって発生する退職金で、退職者の代わりに遺族に支払われます。
役員退職金の適正額
役員退職金の額は
企業の規模や業績、在任年数などによって変わります。
一般社員の退職金と違って相場が決められているわけではないため、「どれくらい用意すればよいのか」と悩まれる方も多いでしょう。
一般的に採用されている計算方法としては、功績倍率方式(最終月額方式)というものがあります。
この計算方式では、役員退職金の額を“役員最終報酬月額×役員在任年数×役位別功績倍率”で求めることができます。
功績倍率とは、会長や社長、専務といった役職ごとの貢献度に応じて退職金の金額を定めるための係数のことです。
会長・社長では3.0倍、専務だと2.5倍、常務は2.3倍、取締役は2.0倍、監査役は2.0倍と設定されているのが基本です。
数値の設定方法は企業によって異なるため、この功績倍率を守らなければならないというわけではありません。
ただしこの倍率よりも高く設定した際は、注意しなければならないことがあります。
たとえば、最終報酬月額200万円で役員在任年数が30年、功績倍率を10倍に設定した場合、功績倍率方式に則って計算すると退職金は6億円になります。
このように退職金があまりにも高い場合、税務調査の際に役員退職金が損金として認めてもらえない場合があるのです。
役員退職金の金額を設定する際は、事前に役員退職金規定などを確認し、適切な功績倍率を定めておきましょう。
役員退職金を生命保険で準備する方法
役員退職金は、実は法人向けの生命保険でも準備することができます。
法人向けの保険は被保険者や家族だけでなく、法人そのものを受取人に指定でき、企業を取り巻くリスクにも備えることが可能です。
ここからは、生命保険で役員退職金を準備する際に利用できる保険について解説します。
終身保険
終身保険とは、文字通り一生涯死亡保障が続く保険のことを指します。
保険料の支払いに関しては、70歳満了など一定の時期が設定されているのが一般的です。
法人向けの終身保険は、契約の経過年数に応じて解約払戻金が増えていくのが特徴です。
そのため、
退職時期に合わせて保険を解約し、解約払戻金を役員退職金に充てれば無理なく老後資金を貯蓄できるでしょう。
なお、終身保険を解約するのではなく契約者を法人から経営者個人に名義変更し、退職金として保険そのものを現物支給するというかたちをとることもできます。
老後の資産に余裕があり、退職金は現金で受け取らなくてもよいという方であれば、退職後の万が一の事態に備えて、死亡保障を継続させることも一つの方法です。
逓増定期保険
逓増定期保険(ていぞうていきほけん)は、時間の経過とともに基準保険金額が増加していく定期保険です。
基準金額からだんだん保険金額が増えていくので、会社の成長に合わせて保障範囲を大きくすることが可能です。
解約払戻金を活用した資金形成が行えるのはもちろん、不測の事態に備えた死亡退職金や弔慰金などの財源を確保するのにも役立ちます。
なお、基準保険金額の増加は、最大保険金額に達したタイミングで打ち止めとなります。
しかし、保険料の支払いはそのあとも続くので、結果的に解約払戻率は低下の一途をたどってしまうことを留意しておきましょう。
長期平準定期保険
長期平準定期保険とは、保険期間中の死亡や高度障害を長期間保障してくれる保険のことです。
終身保険は一生涯保障が続きますが、長期平準定期保険は「95歳まで」と保障期間を決めて契約する必要があります。
上記で紹介した2つの保険と同様、財源確保を行えるのが利点です。
解約払戻率は逓増定期保険と同じく、時間の経過とともに緩やかに増えていきますが、一点異なる部分があります。
それは、解約払戻率がピークに達したあとの低下のスピードです。
長期平準定期保険では、解約払戻率がピークに達したあと徐々に下降していきます。
そのため、
退職時期がはっきり定まっていない企業での財源確保に適しています。
また、保険会社によって非喫煙割引を付加できるタイプや一定期間に限り災害死亡のみを保障するタイプなど、豊富な種類が取り扱われているのも特徴です。
役員退職金を生命保険で準備するメリット
役員退職金を生命保険で準備する方法についてわかったところで、ここからは準備することで得られるメリットを紹介します。
メリット①計画的に退職金を準備できる
計画的に退職金を準備できるのが、メリットの一つとして挙げられます。
預金で積み立てる場合と異なり、運転資金に流入しにくいので、無理なく計画的に退職金を準備できるでしょう。
また、一定額を毎月継続してかけつづけることによって、将来の退職金のもととなる資金を確実に用意することができます。
メリット②節税効果が期待できる
法人保険は、保険料の一部を損金に計上することが可能です。
これにより法人税の対象となる利益が減るため、節税対策として非常に効果的です。
また事業を継承する場合、自社株の評価が高いと贈与や相続する際に多額の税金が課されてしまいます。
しかし、先に述べた利益の圧縮によって自社の株価高騰を抑えられるため、相続税も減税できるのです。
なお、損金にできる割合は保険商品によって異なる点や、満期金や解約払戻金を受け取る際にかかる税金も考慮すべきである点は、頭に入れておかなければなりません。
メリット③緊急時の資金を確保できる
貯蓄性がある保険では、一般的に“契約者貸付”という制度を利用できます。
法人保険に加入しているあいだは、解約払戻金の70~90%程度の金額の貸し付けを受けられます。
退職したあとに受け取る解約払戻金を先に借りるようなイメージなので、無担保かつ無審査で利用することが可能です。
会社が資金不足に陥った場合は、緊急時の資金調達手段として活用できます。
また、貸付金を全額返済することで解約払戻金を予定通り満額受け取れます。
ただし、未返済の貸付金や利息があるとそのぶん解約払戻金から引かれてしまい、場合によっては借入残高が解約払戻金の額を超えることがあるので注意しましょう。
役員退職金を生命保険で準備するデメリット
役員退職金を生命保険で準備する際には、隠れたデメリットに気をつけなければなりません。
デメリット①元本割れのリスクを伴う
法人保険は途中解約すると元本割れになってしまい、損してしまうおそれがあります。
解約払戻金は解約する時期によって返戻率が異なるため、早期に解約すると支払った保険料よりも少ない金額しか手元に戻ってきません。
そのため、資金繰りが難航した際などやむなく解約する場合を除き、継続して積み立てることが重要です。
また、退職時期が明確になっている状態で法人保険に加入できることは、ほとんどありません。
したがって、現在の企業で安定して勤続できる状態でないなら、ほかの手段を検討したほうがよいでしょう。
デメリット②資金繰りを悪化させるおそれがある
高額に設定された保険料を支払いつづけることで、会社の資金繰りが苦しくなるおそれがあります。
業績が悪化したときに保険料の支払いが負担になったり、保険料を支払うことで事業資金を上手にやりくりできなくなったりしては、元も子もありません。
生命保険の加入を検討しているのであれば、これからの事業計画や現在の収支状況などを考慮し、経営を圧迫しない程度の保険料に設定することが重要です。
デメリット③損金算入できない可能性がある
役員退職金の金額は企業によって自由に決めることができるので、役員のためを思うあまり高額に設定してしまうことがあるかもしれません。
しかし、2019年に保険料の損金計上ルールは変更されており、払戻率が50%を超えたときは保険料の全額を損金として計上することができなくなったのです。
したがって、税務署による調査時に役員退職金の額が過度に高額だと否認された場合は、保険料を損金に算入できなくなります。
法人保険は退職後の役員退職金や企業の資金繰り、税金などに大きく関わってくるため、加入する際は、事前に税理士に相談しておけると安心です。
役員退職金は生命保険を活用して計画的に準備しよう
本記事では役員退職金を生命保険で準備する方法や、メリットとデメリットを紹介しました。
役員退職金を準備する方法はいくつかありますが、なかでもおすすめなのが生命保険です。
生命保険を活用することで節税対策にもつながり、緊急時の資金も契約者貸付を使って準備することが可能です。
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