相続対策とは、万が一に備えて、相続を滞りなく進められるよう準備することです。
その際、相続税や遺産分割について考慮する必要がありますが、生命保険に加入していれば、節税効果や円満な財産の分割が実現するかもしれません。
そこで本記事では、相続対策に生命保険を利用するメリットをお伝えします。
生命保険への加入とあわせて、将来のために相続対策にも活用したいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
相続税の計算方法
相続対策を検討する前に、まず相続税の算出方法を理解しておきましょう。
相続税の計算には、課税対象となる金額、すなわち相続財産の額と、基礎控除額、法定相続人の数、税率を用います。
これらを計算式に表すと、“(相続財産の額-基礎控除額)×税率=相続税の総額”となります。
このとき、基礎控除額は、“3,000万円+600万円×法定相続人の数”で算出し、この金額を上回った部分にのみ相続税が課せられるわけです。
相続税にかかる税率は、相続財産の額によって8段階にランク分けされています。
また、最終的に相続税から差し引かれる控除額(基礎控除額とは異なる)も、8ランク別に決まっており、これらは国税庁によって定められています。
詳細は、以下の早見表でご確認ください。
相続税の計算に用いる税率の早見表
相続財産の額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
– |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円以上 |
55% |
7,200万円 |
上記の表に、相続財産の額を照合することで、税率と控除額が明確になるはずです。
例として、相続財産が1億円、法定相続人が妻と子どもの2人だった場合の相続税の計算方法を見ていきましょう。
基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数(2人)=4,200万円となります。
次に、相続財産の額である1億円からこの基礎控除額を引くと、相続税が科される額が5,800万円だとわかります。
この金額に、上記の表の税率と控除額を適用すると、計算式は5,800万円×1/2×30%-700万円となり、一人あたりの相続税の額は170万円と算出できるわけです。
参照元:
国税庁 相続税の税率
生命保険が相続税の課税対象となるケース
生命保険の契約者と被保険者が同じ場合、保険金は相続税の対象です。
保険の契約には、契約者・被保険者・保険金受取人が関わっており、この関係性によって課せられる税金の種類が異なります。
以下に、それぞれの関係性によって変わる税金の種類を表にまとめましたので、ご参照ください。
生命保険にかかる税金
契約者 |
被保険者 |
保険金受取人 |
税金 |
夫 |
夫 |
妻 |
相続税 |
夫 |
妻 |
夫 |
所得税、住民税 |
夫 |
妻 |
子ども |
贈与税 |
上記を踏まえると、契約者と被保険者が同じ人物ではない限り、生命保険の保険金が相続税の対象にはならないことがわかります。
しかし、相続税が科せられない代わりに、所得税や住民税、贈与税が科せられる点は頭に入れておきましょう。
また、先述した基礎控除額を保険金が下回る場合には、相続税の対象にはなりません。
一方で、もし上回った場合でも、生命保険の保険金には非課税枠が設けられています。
詳しくは後述しますので、引き続きご覧ください。
生命保険の活用による相続対策のメリット
ここからは、相続対策に生命保険を利用することで得られるメリットを、6つ紹介します。
メリット①保険金の非課税枠がある
生命保険の保険金は、
“みなし相続財産”として、非課税枠の対象となります。
この非課税枠は、
先述した基礎控除と併用することが可能です。
みなし相続財産とは、民法上の相続財産には該当しないものの、相続税法上では相続財産とみなされる財産のことを指します。
相続税が課税されるのは、“相続財産”と“みなし相続財産”の2種類で、相続財産にかかる税金に基礎控除額が設けられていたように、みなし相続財産にも非課税枠があるのです。
非課税となる額は、500万円×法定相続人の数で算出します。
これを有効に活用するためには、相続税の基礎控除額を超える被保険者の財産を、保険会社に前納し、保険金として受け取れるよう準備を進めます。
そうすれば、財産は保険金として受け取れるため、みなし相続財産の非課税枠が適用され、そのまま現金で相続するよりもさらに相続税を減額できるというわけです。
なお、保険金の受取人が法定相続人であることが条件なので、生命保険を利用して相続対策を実施する際には、受取人の選定にも気を配る必要があります。
メリット②遺産分割がスムーズになる
生命保険に加入して必要な手続きを踏めば、
残されたご家族が相続財産の分割で揉めるような事態を避けられるでしょう。
“長男50%、次男25%、三男25%”といった具合に、あらかじめ保険金受取人と受取割合を設定することができるので、万が一の際にも、相続人はスムーズに遺産分割できます。
また、複数の生命保険に加入して、それぞれ別の受取人を設けるのも有効です。
相続人が、事前にどの程度の財産が自分に配分されるのかを把握できれば、遺産分割協議が始まってから紛争が起こることはないはずです。
このように、生命保険に加入し、先んじて相続財産の受取人と割合を明確にしておくことで、円満な遺産の分割につながります。
メリット③死亡保険金を現金で受け取れる
保険金を現金で受け取れる点も、相続対策に生命保険を活用するメリットといえます。
もし、被保険者が亡くなってしまった場合、相続税の納付や葬儀などで、思ったよりも出費がかさむことも考えられます。
なかでも、相続税は現金納付が原則なので、相続財産の額が基礎控除額以上の場合は、早急に多額の納税資金を現金で用意しなければならないわけです。
また、被保険者が亡くなった場合、預金口座は凍結され、遺産分割協議が終了するまでは預金を引き出せなくなります。
相続財産の分割で話がこじれ、まとまるまでに時間を要すると、“預金はあるのに引き出せない”という状況に陥りかねません。
そのようなとき、生命保険に加入していれば、保険金としてすぐに現金を受け取れます。
多額の相続税が発生しても、遺族は不動産や証券などの物納ではなく、現金で納税できるのです。
メリット④子どもを契約者にすることで財産を贈与できる
親が子どもに財産を遺す手段としても、生命保険の利用が有用です。
生命保険に加入する際、契約者と保険金受取人を子どもに、被保険者を親に設定します。
そして、生前贈与として親から子どもへ財産を与えて、その全額を保険料の支払いにあてることで、子どもに保険金として財産を遺せます。
単なる生前贈与では、税務署に認められない場合があるので、このような方法が有効なわけです。
ただし、このとき注意しなければならないのは、贈与税の存在です。
贈与税では、年間で受け取った額が110万円を超えた場合、その超過分は課税対象となります。
ですが、裏を返せば、この額を超えなければ贈与税は発生しないということなので、生前贈与の額を年間110万円以下にすれば、子どもにより多くの財産を遺せるでしょう。
なお、この方法で保険金を受け取る場合でも相続税はかかりませんが、所得税・住民税は発生します。
両者を比較して、どちらの税金が安くなるのかシミュレーションしておけば、有利な納税を選択することができます。
メリット⑤相続放棄した場合も保険金を受け取れる
生命保険の保険金は、
受取人固有の財産であるため、相続を放棄したとしても受け取れます。
相続財産には、ローンの未払金や債務など、マイナスの財産も含まれることから、相続放棄を選ぶ相続人も少なくありません。
誰でも借金を肩代わりするのは抵抗がありますから、このようなリスクを避けて、保険金のみを受け取れるのは大きなメリットといえます。
しかし、相続を放棄するということは、法定相続人から外れるのと同義なので、生命保険の非課税枠は適用されません。
また、相続放棄の手続きには家庭裁判所まで赴かないとならないのにくわえて、相続の開始を知った日から3か月以内の申請が必須です。
メリット⑥代償分割に活用できる
生命保険に加入していれば、
“代償分割”によって遺された財産を均等に分割できます。
代償分割とは、財産の分割が難しい場合、特定の相続人がこの財産を相続し、ほかの相続人には現金を支払って調整することです。
たとえば、法定相続人は長男と次男で、相続財産の大半が土地や建物である場合をイメージしてみてください。
これらを半分に分割して相続することはできませんから、長男が財産を相続したとすれば、次男には何も遺らず、公平さに欠けてしまいます。
このようなときに、相続財産の評価額の半分を、長男から次男に代償金として現金で渡せば、互いに公平な相続が叶うわけです。
その際、長男の手元に十分な資金があるのが前提となりますが、それ相応の大きな額をすぐに用意できるケースは稀でしょう。
そこで、被相続人が生命保険に加入し、保険金の受取人を長男にしておくことで、長男はそのお金を代償金の支払いに充てられるのです。
残されたご家族に均等に財産を与えたいとお考えなら、生命保険への加入と代償分割の活用をご検討ください。
相続対策に生命保険を使う際の注意点
生命保険に加入して相続対策を実施するにあたっては、以下の注意点を押さえておきましょう。
リビング・ニーズ特約を使う場合
生命保険金の受取に際して、リビング・ニーズ特約を使うと非課税枠が適用されない場合があります。
この特約では、被保険者が医師から余命6か月以内と判断されたときに、保険金の一部または全額を、生前給付金として被保険者本人が受け取れます。
受取人が被保険者となるので、税金は発生しないため、給付金を丸ごと治療費やご家族の生活費などに充てることが可能です。
ただし、生前給付金を使い切る前に被保険者が他界すると、残高は相続財産として扱われ、相続税の対象となります。
この場合、保険金として受け取ってはいないため、生命保険の非課税枠は適用されません。
リビング・ニーズ特約で生前給付金を受け取る際は、お金の用途をあらかじめ決めておき、被保険者が存命中に使い切るのが良策です。
生命保険の受取人が配偶者や二親等以外の場合
第三者を生命保険金の受取人に指定する場合にも、非課税枠は適用されません。
個人で生命保険を契約する場合、保険金の受取人に指定できるのは、原則として被保険者の配偶者や二親等内の血族までです。
しかし、近年は婚姻形態の多様化が進み、内縁関係や事実婚関係、同性のパートナーに対して生命保険金を遺したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
その場合、すべての保険会社に該当するわけではありませんが、保険会社が定める基準を満たし、必要書類を提出することで、保険金の受取人として認められます。
ただし、このような法律婚以外のパートナーは、戸籍上は第三者とみなされるため、生命保険の非課税枠の対象からは外れてしまうのです。
そうなると、受取人は保険金の全額を相続財産に合算することになり、収める税金が重くなります。
生命保険の活用が、すべての方にとって相続対策につながるわけではないという点を、念頭に置く必要があります。
相続財産に占める生命保険金の割合が極端な場合
法定相続人が受け取る相続財産において、生命保険金の割合が極端に多い場合は、“特別受益”とみなされる可能性があります。
特別受益とは、一部の相続人が、被相続人からの生前贈与や遺贈などによって得た利益のことです。
特別受益とみなされた場合、ほかの相続人との公平性を保つために、実際の相続財産の額と合算したうえで、各相続人へ分割するよう定められています。
つまり、受け取った保険金をほかの相続人に分配せざるを得ない状況になるわけです。
そのため、生命保険金を設定する際には、保険金の占める割合を相続財産の過半に抑えて、特別受益とみなされないよう留意しましょう。
相続対策で生命保険を活用することで、相続税の減税やスムーズな遺産分割が可能になる
今回は、相続対策に生命保険を活用するメリットをお伝えしました。
生命保険に加入してうまく利用すれば、相続税を抑えられるだけではなく、相続財産の分割もスムーズに進めることができます。
また、土地や建物などの分割が難しい相続財産でも、生命保険金を使えば、各相続人の公平さを保てます。
このように、万が一の際に備えるための生命保険ですが、相続対策にも真価を発揮しますので、長い目で将来を見据えるなら加入を検討してみてはいかがでしょうか。
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